ビデオ戦争VHS戦線

 

VHSという媒体には言い知れないフェティッシュを感じる。

 

今から集めよう、コレクションしようというほどの根性はないけれど、VHSについてのドキュメンタリー映画が公開されれば劇場に足を運ぶくらいには興味があるし、なにより幼い頃はVHS(とベータの残骸)しかなかった世代なので、完全にオーパーツという感じもしない。

 

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VHSテープを巻き戻せ!』予告編

 

上記のドキュメンタリーを観ると、VHSが引き起こした異常なほどのバブルと狂騒、そしてその狂気に取り憑かれて狂ってしまった人々を満遍なく観ることができてとても楽しい。あと、押井守なんかも出てきて、VHSがアニメ製作の現場に導入された結果記憶力が極端に落ちた話なんかを滔々としていたりする。

 

そういえば、DVD以降のメディアから入った世代にはテープを巻き戻すという体験が存在しない(チャプターを送る、早送りする等はあるにせよ)わけで、彼ら彼女らは録画したい番組が始まったのに録画用のテープを巻き戻していなくてジリジリする「あの感じ」を知らないのかと遠い目をしてみたり。でも、今になっても別に郷愁を感じたり懐かしく思ったりするような体験でもないね。そのうち、webページの応答速度が極端に速くなって「昔はリンク踏んでもすぐにページが変わらなくて、ほんっとイライラしたんだよね」みたいなことがメディアに待たされたイライラ体験の王道になる未来が来たりするのかな。

 

個人的に、VHS体験自体にはそこまでフェティッシュな思い入れがないのは、ひとえにVHS時代の黄金期に生きていたわけではないことと、その時金を出して蒐集するような年齢でなかった(生まれてなかった)ことが関係ありそうだ。もう一度観たいなら名画座でかかるのを待つしかなかった映画とか、再放送を待つしかなかったテレビドラマなんかをいつでも好きな時に好きなだけ観られるようになった瞬間の興奮とか、体験してみたかったかな。何事も変わる瞬間が面白い。多分、黎明期を知っているもので類比させるならYouTubeの登場なんかに近いのだろう。映画の予告編を好きな時に観られるなんて今じゃ当たり前だけど、人生の3分の1くらいはそうじゃなかった時代に生きていたと思うと妙な感じがする。

 

過去の作品を観る媒体としてのVHSは、(手に入るかは別にして)未だに最強だ。とにかく、80年代は本当に、今じゃ考えられないくらいのVHSバブルが来ていて、あらゆる映像をVHS化していたらしい。だから、VHSでは観られるけどDVDBDでは観られない映画はとても多い。2年くらい前に特集上映で観た松方弘樹主演の『脱獄広島殺人囚』なんて、死ぬほど面白いのにソフト化されているのはVHSのみで、残念極まりない。BD出たら即買うのに。ラインナップを熱心に拡大しているAmazon Primeとかにレンタルでそのうち収録されたりするかもしれないけどね。輸入のDVDBOXVHSでしか出ていなかった勝新太郎の『御用牙』三部作もAmazon Primeで観られるようになった時代だから。

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『脱獄広島殺人囚』

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『御用牙』三部作

 

恐ろしいほどのバブルが来ていたってことは、名作やカルトだけじゃなくて、というかそれらを遥かに上回る圧倒的な数のどうしようもないビデオが作られて販売&レンタルされていたということでもある。ビデオ屋の棚を埋める為に内容もわからず輸入された変な映画が多数出回っていたりして、その中から珍作を探す楽しみなんかもあったのかなと。まぁきっと同時代に生きていたら面倒でそんなことしなかったんだろうけど。

 

そんな、深夜アニメどころじゃない勢いで粗製乱造されていたVHSの中でも「逆に面白い」みたいなことすらない、箸にも棒にもかからない「ゴミビデオ」だけを観て論評した本*1が出ていて、なんと著者がかの平山夢明氏(デルモンテ平山名義)なのも手伝って読んでみたけれど、噂以上。中身を読まなくても目次を見るだけで、大体察しはつくというね。まぁ、パクりであるにしろ、よくあれだけのタイトルを考えられるものだと感心もしたけど。怖いもの見たさで何作かは(観られるなら)観てみたい。

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デルモンテ平山のゴミビデオ大全』*2

 

ビデオのタイトルがオチみたいなものだからあんまり挙げるとあれだけど、

ランボージョーダン 捕虜救出作戦』

『死刑執行ウルトラクイズ おだぶつTV』

ナチス・ゾンビ 吸血機甲師団

……みたいなのはまだ工夫がある方、という惨状。

 

『ノット・クワイト・ハリウッド』みたいに、オーストラリアで作られたゲテモノ映画がハリウッド映画(というかクエンティン・タランティーノ)に影響を与えた、みたいな話もあるけど、それはまぁ気の狂ったビデオの断片を上手いこと自分の中で繋げられる(作品に昇華までできる)人の楽しみ方であって、本気で金出して買ったりしてたら笑うに笑えないだろうなぁと、ゴミビデオの山を観ていて思わずにはいられない。

 

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『ノット・クワイト・ハリウッド』予告編

 

……そのうち、邦訳の続きが出ないアメコミ*3の原書に手を出すように、VHSでしか観られない映画を片っ端から集めるようになっていそう。

 

 

*1:デルモンテ平山のゴミビデオ大全』

*2:表紙が『ビデオドローム』なのは最高

*3:『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』『トム・ストロング』『プロメテア』『ロスト・ガールズ』……アラン・ムーアばっかりだ。あと、『サーガ』の続き。絶望的だと訳者本人から聞いているけど