ナイスガイズ!/腕組みする天使

 

You're the world's worst detective.

 

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シェーン・ブラック(とジョエル・シルバー)がまた『キスキス,バンバン』みたいな映画また作ってる!と思って観に行ったけど、半分その通りで、もう半分は役者同士のケミストリーと素晴らしい新人俳優に出会えるという驚きがあって、結果とても良かった。

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頭がキレて腕も立つ示談屋ジャクソン・ヒーリー(ラッセル・クロウ)と酒浸りで腕っ節も弱いダメ私立探偵のホランド・マーチ(ライアン・ゴズリング)の二人がコンビを組み、L.A.の闇にに消えた女“アメリア”を追う。音楽、ドラッグ、車、映画、そしてなによりポルノがキーワードの70年代アメリカを凸凹コンビが駆ける。飄々としたノワールコメディ、とてもよい。大好物。

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探偵が知らぬ間に巨大な陰謀に巻き込まれるのは日常茶飯事。本作を観て思い出すのは、『ロング・グッドバイ』『ブギー・ナイツ』『ビッグ・リボウスキ』『インヒアレント・ヴァイス』……。勿論、シェーン・ブラックが脚本を書いた『リーサル・ウェポン』シリーズや、彼が監督した『キスキス,バンバン』のテイストもある。ただ、ライアン・ゴズリングラッセル・クロウのコンビは、一連の映画で何度も観たような気がするほど懐かしい雰囲気があるにも関わらず、新しさもあって、とてもよかった。帰還兵で示談屋のヒーリーは仕事と割り切って暴力を振るうが、どこかで真っ当になりたいと足掻いている人間であり、妻に先立たれ、かつての夢もどこかへ消えた“絶対幸せになれない男”のマーチもまた、何者かになろうと足掻いている。鼻の利かない探偵とか、“ダイナー事件”のエピソードとか、細かい設定や会話でキャラクターを作っていくのがシェーン・ブラックは上手い。

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エリオット・グールドフィリップ・マーロウ from ロング・グッドバイ


アロハにジャケットだったマーチが後半でシャツにネクタイを締めるのは、徐々に『ロング・グッドバイ』のフィリップ・マーロウになっていくようで(行動は相変わらず抜けているけど)、その辺も意識したのかなと。シニカルな雰囲気は『インヒアレント・ヴァイス』の“ドック”ことラリー・“ドック”・スポーテッロを彷彿とさせる。一方のラッセル・クロウは最初から最後までブルーの革ジャンで通し、酒も断っている様子。ただ、体型も相俟ってあまりにもジョン・グッドマン然としているので(上映前『キングコング』の予告編がかかっていたことも無関係ではないかもしれない)、マーチとヒーリーの二人が車の運転席と助手席に並んで座っているところなんかは、デュードとウォルター感があった。

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ホアキン・フェニックス演じるラリー・“ドック”・スポーテッロ from インヒアレント・ヴァイス


映画界が死に体だった70年代アメリカで唯一元気だったのがポルノ産業だ。それこそ『ブギー・ナイツ』で描かれたような業界の隆盛と、『ビッグ・リボウスキ』の背景に見切れるポルノ王のように、娯楽産業の中心にポルノは在った。また、ウォーターゲート事件なんかも起こっていて、政治は冬の時代を迎えていたりもする。劇中で描かれていた環境汚染に抗議するヒッピー風のダイ・イン運動も、時代を感じさせる。エリオット・グールドの演じるフィリップ・マーロウがくたびれていたように、マーチもヒーリーも共に何かに疲弊したような顔で登場するが、それは必ずしも冴えない、殺伐とした日常に依るものではなく、時代に疲れてしまっているというニュアンスも感じられる。

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デュードとウォルター from ビッグ・リボウスキ


彼らの傷ついた魂に差し込む一条の光が、ホランド・マーチの娘、ホリー・マーチ(アンガーリー・ライス)である。恐ろしく冴えていて要領も物分りもいい悟りきった13歳は、しかし年相応というか、それ以上に真っ直ぐな心の持ち主でもあって、オッサン2人の魂を救って余りあるイノセンスの塊だ。ヒーリーが仕事を越えて何かを完遂しようとしたのもホリー故であり、またホランド・マーチが逃げ出さずに巨大な権力に立ち向かったのもホリー(から向けられる憧れの残滓)故であった。演じるアンガーリー・ライスの、聡いのに嫌味のない演技が素晴らしいというか末恐ろしい。オーストラリアは常に凄い俳優が出て来る国だよなぁ。そういえば、酔いどれ探偵が権力の伏魔殿に迷い込むところは『インヒアレント・ヴァイス』っぽいけど、父と娘の関係性は同じピンチョンでも寧ろ『ヴァインランド』だよね。

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脇を固める俳優陣も素晴らしく、マット・ボマーのマッド全開の殺し屋とか、探偵を翻弄するアメリア役のマーガレット・クリアー(ハリウッド版デスノートのミサを演じるらしい。関係ないけど、ハリウッド版のデスノートって字面がもう面白い)、キム・ベイシンガーの秘書役のヤヤ・ダコスタもよかった。ブルーフェイスの彼は昨年公開の秀作『ザ・ギフト』にも出ていたよね。何より、キース・デイヴィッドとラッセル・クロウの肉弾戦が観られるとは!アツい。

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インヒアレント・ヴァイス』では、探偵のドックが翻弄される事件の背後に伸長する権力の伏魔殿が見え隠れするという形をとっていたが、本作では寧ろはっきり「政府と自動車業界」という形で「巨大な権力」の実態そのものを描いているところが対照的だ。巨大すぎる権力を前にして、わかりやすい形で勝利を得られないというところは共通している。結局ドックの元からシャスタは去ったけど、ホランドの元からホーリーが去ることはなく、ナイスガイズ探偵社がはじまったのだから、ダイナーで祝杯を挙げるのは最高の幕切れであった。お気楽でいいじゃないか。

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Marriage is buying a house for someone you hate.